ジルをつくると決めた時、最初に考えたのが「エイベックスか矢沢永吉か」というテーマです。エイベックスとは、ゴリゴリにマーケティングをして、お客さんが求める音楽をつくるというスタイル。矢沢永吉は、「俺の歌で心震わせてみせる」というスタイル。選んだのは、迷うことなく、矢沢永吉です。やりたくないことやって売れるのではなく、やりたいことやって喜んでもらおう。そう決めていました。広くマーケティングをして、大勢の人が喜びそうな答えを探すのではなく、届けたい人にターゲティングして、自分たちが生み出したい世界を創る。
その場所として選んだのが目黒でした。埼玉出身の自分は、中学・高校までは遊びに行くとしたら池袋まで。大学生になって渋谷。大人になって初めて、目黒という街を知りました。目黒は、目も舌も肥えた大人が集まる粋な街です。特に当時は、大手チェーン店でさえも苦戦し、昔からの名店だけが何とかやっていける街でした。飲食業界の経営者に「目黒に出店する」と言うと、嗤われました。「絶対に失敗するから止めとけ」と。
確かにマーケティング的には、目黒を避けるのは正しいのだと思います。けれど、そもそも出発点が違う。自分たちがやりたいことを喜んでくれる人をお客様にしようと考えた時、「イケてる=粋」な人が集まる目黒が、自分達にとって最高の場所でした。マーケティングをすればするほど、スタート地点には誰も選ばない、難攻不落の最高峰。それが、ジリオンのスタート地点です。
「目黒で新規の飲食店は成功しない」と言われる中、ジル目黒はわずか4ヶ月で月1,000万円の売上を超え、飲食業界では「目黒の奇跡」と呼ばれました。意図せず、業界の各所から取材を受けて話題になり、その当時お客さんとして訪れてくれた人が、今ではジリオンの仲間として働いてくれています。結果として、売上やブランドに繋がりましたが、当時の僕たちが目指していたのは、あくまでCSでした。ご来店される一人ひとりのお客様が、満足して感動して帰って頂けるかどうか。それが全てでした。
CS100を実現するために特に注力していたのが、ホールでのサービスです。ホールのプロフェッショナルとして大切な能力は、「オペレーション」「リコグニション」「アンティシペーション」の3つです。
「オペレーション」は、運営力です。運営力とは、的確にお客様をご案内し的確な時間に的確な料理や飲み物を出すことです。そして、同じクオリティのサービスを100人のお客様が来店すれば100人のお客様に提供できることです。全てのテーブルで100点のサービスを提供する。この「オペレーション」の基準が高いことが、他の飲食店と一線を画すジリオンの競争優位性です。「リコグニション」は、認知力です。ご来店頂いたお客様の顔やお名前、料理の好みや興味を持っている話題を覚えておいて再来店の際のサービスに活かすことです。何も言わなくても目線を交わすだけで、言われなければ出て来ない筈の泡なしのビールが出てくる。それができれば120点のサービスです。「アンティシペーション」は、予知力です。いつも泡なしのビールだけれど、今日は様子が違う。もしかしたらいつもと違うものが飲みたいのかもしれないと先回りをして、オススメのドリンクを出す。そこまでできれば150点です。
ジル目黒のホールに僕が立っていた頃、当時のメンバーにはCS100の実現のため、非常に高い基準で菅原や奈美やカナに「オペレーション」「リコグニション」「アンティシペーション」を高めることを求めました。僕はよく、皆に「行動の意図」を問いかけました。「なぜまだ席に案内をしないのか?」「なぜ今水を出したのか?」「なぜ先に料理を運んだのか?」。「なぜ」「なぜ」を繰り返し、全ての行動に意図を持つプロフェッショナルへと成長してほしかったからです。そして、皆その期待に見事応えてくれました。
私たちにとって何よりも一番大切なもの、それはCSです。CS100に向けて全ての力を注ぐことがジリオンの存在意義に繋がります。もし仮に、そこそこのサービスで、そこそこの料理で、そこそこの売上・利益を上げることを目指すような会社になったとしたら、ジリオンは解散します。存在する意味がないからです。皆さんがジリオンで働く一番の理由も、CS100を全力で目指せるお店だからだと思っています。全てはCS100のために、これからも会社を創っていきましょう。
最後に、当時ご来店されたお客様が書いてくださったブログを掲載します。「誰かに伝えたくなるほどの感動」を生み出せたということは、CS100を実現できた証です。接客を担当したのは、奈美からサービスを学んだ社員の部谷(ヒダニ)アイです。 ダニ、ありがとう。